「民宿 中の屋」

富山県の南砺市の山奥、利賀村にてどぶろく「まごたりん」を醸す「民宿 中の屋」さんの取材レポートです。
●取材・レポート
日本伝統濁酒学酒講師・どぶろくアンバサダー アサノノリエ

高い山々に囲まれた秘境の民宿へ

深い深い山道をかなりの時間小さな市営バスは走り、辿り着いたのは富山県の南砺市(なんとし)の山奥、利賀村(とがむら)。旅の目的地はどぶろく「まごたりん」を醸す民宿 中の屋。
富山県の南西部に位置した南砺市にある利賀村は2021年2月時点人口480人ほどで、岐阜県に隣接しています。1995年12月9日にユネスコの世界遺産(文化遺産)に登録された「白川郷・五箇山の合掌造り集落」の五箇山の相倉と菅沼の集落がある南砺市内で、飛越地方庄川流域の中流には五箇山、そして上流には白川郷(岐阜県大野郡白川村)があります。

江戸時代は流刑地だった五箇山エリアは周囲を高い山々に囲まれ、今では過疎化と高齢化が進み、まるで外界と途絶された陸の孤島のような深い山間部。冬場は豪雪地帯となる物静かな村はまさに秘境。しかしながら美しい自然や文化は日本の財産として残っています。
白川郷・五箇山と言えば、どぶろく好きには憧れの土地、日本のどぶろくの聖地のひとつ。豊穣の秋に行われる白川郷どぶろく祭りは地元の人達や観光客に愛される伝統的なお祭り。五箇山のある南砺市は2011年3月25日構造改革特別区域計画「なんと活性化どぶろく特区」に制定され、市内全域で製造可能に。特区内で酒造りの免許を取得するには、農業者が自家産米で仕込み、自ら経営する民宿や農家レストランで提供する等の要件を満たす必要があります。「民宿 中の屋」も米の栽培からどぶろく「まごたりん」を醸し提供しています。

飲み“たりん”さんのお孫さん、まごたりん

「民宿 中の屋」でお迎えしてくれたのは民宿オーナーの中西邦康さん。中西家の5代目当主で1941年生まれの中西さんは、人口も少ない山奥の利賀村で、野菜や米などを有機無農薬栽培や自然栽培で育て、ほぼ自給自足のような生活をしながら2012年に初めて製造免許を取得、同年7月年より醸造を開始し、「まごたりん」を民宿にて提供しています。

「まごたりん」と言う可愛い名前の由来は、中西さんのお爺様が大の日本酒好きで一升飲んでも「足りん」くらい飲む豪快でお人好しな方で通称「たりんさん」だから。中西さんのお父様は「子たりん」、そのお孫さんと言うことで「孫たりん」。つまり中西さんのことです。
ちなみに、たりんさんが好きで飲んでいたのは利賀村と同じ南砺市にある地酒「三笑楽」らしいです。

アイデアが詰まった個性豊かなどぶろくたち

民宿内の醸造所は10㎡程のとても小さなスペースで、蒸し器も、仕込み鍋も一人で運べるほどとてもコンパクト。飲食店にあるような業務用冷蔵庫で貯蔵しています。どぶろくの年間生産量は約400ℓ、一度の仕込みの量は20ℓで、一つの仕込みが終わり、ボトリングをすると次の仕込みを始めるそう。
どぶろくはもろみを濾さないため口当たりに粒が残りますが、見た目も食感もユニーク。フレッシュでフルーティーな風味を楽しめます。「火入れをしていない酵母や酵素が生きているまさに健康飲料で、日本酒の原型の米の発酵酒!作り立てはフレッシュな炭酸や甘酸っぱさも楽める。賞味期限はないので少しづつ変化する味わいをお楽しみいただきたい。常温保存や長期熟成させたのも美味しく、新たな可能性を感じる。」と中西さんはおすすめしています。

どぶろく「まごたりん」は軟水の村の湧き水「鴻の貴水」で仕込み、中西さん栽培の自家製自然栽培米の「フクヒカリ」だけでなく、古代米やもちきびも使用しています。酵母は通常の協会酵母901号だけでなく地元利賀村オリジナルの「岩魚の酵母」や「そばの花酵母」を使用したユニークなものも限定商品としてあります。


見た目も雑穀の粒が見える古代米やもちきびを使用したものはさらに個性的。ドライでいきいきとした酸もあり、旨味たっぷり。プチプチとした食感と独特の風味と複雑味が特徴的です。口に粒が残る=食感がある、咀嚼する事で穀物の風味が広がる…シリアルやオートミールのような雑穀の風味があり、ヘルシーな印象です。
地元特産品を生かし地域活性化に取り組む目的で中西さんが富山県食品研究所に提案したのが「岩魚の酵母」のどぶろく。岩魚の皮より抽出された酵母使用ですが生臭さなどまったくなく、901号酵母より滑らかで甘みとコクがあります。
南砺利賀そば祭りも行われ、日本初のそば資料館もある利賀村。中西さん宅近くで採取した蕎麦の花から分離した酵母「蕎麦の花酵母」を使用したものはやや甘酸っぱく、爽やかと華やかさに旨味を感じられます。

定番は比較的ドライさもあり飲みやすいので中西さんの手作りのお料理ととても相性が良いです。民宿には囲炉裏があって、なんと熊の毛皮が敷いてある昔ながらの空間。食事は蕎麦や岩魚、高原野菜、山菜、ジビエ等の地の物や、中西さんの手作りの味噌などの調味料や発酵食品を頂けます。夕食にも朝食にも中西さんの自然栽培、自然乾燥させたコシヒカリを炊きたてで頂ける贅沢さ。どぶろく、味噌、お漬物等の発酵の力、化学調味料を使わない食材の風味を生かした素朴な味わいの料理を頂きながら、深い山奥の景色や水、空気と共に、都心から離れ、心も身体も中から解れていくのがわかります。


標高1,000mを越える山々に囲まれた利賀村。演劇や蕎麦などの特産品を通した地域づくりもしています。中西さんは民宿を通じて、利賀村の山の体験が出来る山村留学、セカンドスクール、合宿も開催しています。宿泊する都会の子供たちや学生、15カ国以上から訪れる外国人には、蕎麦刈り、蕎麦打ち、山登り、田植え、稲刈り、わらじ作りなど様々な田舎暮らし体験が人気です。中西さんは利賀村への移住者で農業に関心の高い若者と「自然栽培研究会」を立ち上げたり、「百姓塾」を運営したり、どぶろく醸造、民宿経営、農業、料理とそして積極的に地域活性化のコミュニティー作りをしています。1976年の創業以来「出会い ふれあい 助け合い(結)そして喜び」をモットーに観光客や地域の人々との関係を大事に活動されています。

利賀村の大地の力と自然の恵み
祖先の想いを次世代への継承すること
そして何よりも中西さんのおもてなしの心

都会では味わえない利賀村の自然と山の暮らしの体験を、ぜひ利賀村へ行って中西さんとの会話と共に、有機農法で作られた食材のお料理と、どぶろく「まごたりん」と一緒に楽しんで頂きたい。

◉民宿 中の屋 toga-nakanoya.net
富山県南砺市利賀村坂上551
電話番号 0763-68-2104
JR越中八尾駅より市営バスで約50分。
最寄のバス停「坂上下田」より徒歩約20分。
車で五箇山ICから約30分。